結婚を許してくださいが気になる
彼氏の額にはうっすらと汗が浮かんでいる。
普段ならすぐに崩してしまうであろう正座も足の痛みをこらえながら保っている。
横には不安そうな表情の彼女。
向かい側には彼女のご両親だ。
時計の秒針が時間を刻む音がよく聞こえるほどに部屋の中は静まり返っている。
しばらく続いた気まずい沈黙を彼氏の勇気ある一言が破った。
「お父さん」
「お前にお父さんと呼ばれる筋合いはない!」
「娘さんとの結婚を許して下さい!」
「だめだ!」
「お願いします!」
「だめだと言ったらだめだ!」
ドラマなどでよくある結婚のあいさつのシーン。
現実でこんなコテコテな場面に遭遇することは珍しいと思うが、結婚の許しをえるためにあいさつに行くこのイベントは今でも日本各地で発生しているだろう。
俺は
結婚を許してください
が理解できない。
例えば結婚を考えているそのカップルのどちらもが未成年だった場合、または女性方が未成年だった場合はまだわかる。
未成年は自分の決断の責任を自分で終える能力がまだ備わっていないので、決断権を一部親にまかせる代わり、責任も負ってもらう。
いわゆる保護だ。
親の保護の対象からまだ脱していない者との結婚となれば、保護している親の決断が必要になるため、親に結婚を許可してもらわなければいけない。
それは分かる。
だがこの結婚を許してくださいのイベントは両者ともに成人であった場合も発生する。
責任を自分で負える成人になっていても、だ。
それは責任をすべて自分で負うにもかかわらず、決断の最後の一押し、イチバン大切なところを親に委ねることに他ならない。
結婚をした後、幸せになろうが不幸せになろうがその結果をすべて背負うのは自分なのに。
未成年の少年少女が決定権を親に委ねるのは、親がその結果を背負うからだ。
言わば、子供に関する決定はその責任を負うという意味で自分の決定でもある。
だがこの「結婚の許可」においては決定権を親に委ねる根拠となる、「責任を親が負う」という要素はまったく存在しない。
端的に言ってヤバイのだ。
あまりにヤバイ。ヤバすぎる。
結婚後不幸せになったとき、親が子供の不幸せをすべて担ってくれるのであればまだ理解できる。
「こんな結婚生活…お父さんとお母さんのせいだかんねッ!!」
「す、すまん…」
「本当にごめんねぇ」
だがこんなこと起こるはずがない。
結婚相手を決めたのはお前ぢゃん?
だからあーしらはどうなろうが関係ねえぢゃん?
でも結婚していいかどうかはあーしらが決めるかんね!!
暴論である。
暴論ぢゃん?
俺の中のギャルもそう言っている。
パねえ。パねえっす。
結婚の責任をまったく負わない存在であれば、道ゆくおっさんとかでもいいのだ。
道端で出会ったおっさんに対して
「僕たちの結婚を許してください!」
と言っているのと、構造的には同じだ。
結婚の許可なんて必要ないと思う。
プロポーズして、成功すれば、というかプロポーズしてなくてもお互い結婚を了承していれば市役所に行って婚姻届けをブチかましてハイ終了で良いと思う。
親には「僕たち結婚しました~」ぐらいのあいさつで良いんじゃないか。
結婚を“許してもらう”必要など全くない。
自分の人生の、自分の決断だから。
親の許可が必要だと勘違いしている大人はけっこう多い。
親がまったく責任を負わなくても、親の生活に自分の判断がまったく影響しなくても、親の判断がなければ決められないと勘違いしている人。
こういう人の多くは子供のころからなんでも判断を親に仰ぎすぎたんじゃないかなと個人的には考えている。
志望校を親が決めてしまう。
志望校をどこにすればいいか分からないから、親に決めてもらう。
こんな光景をバイト先の塾でよく見かける。
志望大学を親に決められてしまう彼らには往々にして判断能力が備わっていない。
小さいころから自分の考えでメリットデメリットや実現可能性、リスク等を考慮しながら選択する練習をしていないからだ。
塾に通うかどうか、スポーツクラブに入団するかどうか、果ては友達と遊んでいいかどうかも親が決めてしまい、親がリスクをすべて管理してしまう。
考える機会をすべて親が奪ってしまう。
そうすると子供はリスクを極端に恐れるようになり、決断を放り投げる。
決断を親に完全に任せることで、自分は責任を負わなくて済む状況を作るようになる。
こういう判断力・思考力が極端に欠如している生徒は受験に失敗する。
受験勉強には判断が常に付きまとうからだ。
どの参考書を使うのか、一日何時間勉強するのか、どの模試を受けるのかなどなど、状況をよく見て臨機応変に対応しなければいけない局面は毎日訪れる。
そういう子供が大人になってパートナーを見つけ、いざ結婚というときに
「結婚を許してください」
と言うんだろう。
そういう人って、そういう生き方で幸せなのかなとふと疑問に思ったりする。
うーーーん。